この年マレイは、ディジョネットやサニー・マレイのレコーディングに参加したものの、リー ダー作品はこれだけです。メンバーはロフト・ムーブメントを代表するユニット“エアー”の、フレッド・ホプキンスとスティーブ・マッコールです。ドラムのマッコールとは、マレイのリー ダー・セッションでは初競演ということになります。前作に続くトリオ作品なのですが、ジャ ケットに写っている美女は、マレイの奥さんのミンです。sweet lovelyというアルバム・タイトルはミンに捧げたものなのでしょう。
圧倒的なのが、ベースとドラムの迫力。ブラック・セイントの録音技術の高さもあるのでしょうが、低音の洪水が迫ってきて、聴く者に襲い掛かります。想像力の限りを振り絞りこの洪水に乗ってくるマレイには、ロフト・シーンから出発し前年には欧州で圧倒的な評価を得て、己の世界を作り上げた自信がうかがえます。上辺だけ聴くと2年前に戻ったかのようですが、その中身は1980年代に向けて自らの進む方向を示すために、過去の形態を借りながら新しい自分をしっかりと投影しているようです。恐らくこの1979年は、マレイの中で様々な考えが去来したのでしょうけど、年末にしっかりと回答を出したようです。