数枚或いは1枚だけアルバムを残して消えて行った女性歌手はたくさんいまして、このキャシー・ヘイズもその一人です。僕は当然ながら10年前の再発盤で聴いているのですが、再発されるということはそれだけ魅力がある証拠でしょうね。1937年生まれの彼女は、子供の頃からお兄さんの影響でマイルスやパーカーのレコードを聴いていたそうです。ジャケットを見ると、人気の無いカフェで男に何事が囁かれている彼女の写真で、なかなかの美女ですね。一見するとポップ色が強そうですが、幼い頃からジャズに親しんだ彼女のことですから、そんな心配はいらないでしょう。ギターとアレンジはバーニー・ケッセルで、スタンダードを12曲歌っていますよ。
しっとりとした歌声の方です。悪く言えば、少しこもる感じがしますね。その意味で低音部を効かせたスロー・ナンバー、 “ブルー・ムーズ”“ラスト・ナイト・ホエン・ウィー・ワァー・ヤング”“マイ・オールド・フレイム”などが良い出来ですよ。またアップ・テンポの曲はバックも大編成の感じなのですが、スローですとコンボですしね。“イフ・アイ・ワァー・ベル”はマイルスのミュー ト・トランペットをすぐ思い出す曲でアップ・テンポなのですが、彼女は他の曲では聴けない崩した感じの歌い方が、魅力的です。幼少の頃からマイルスを聴いていたという話は、この曲の歌い方から充分伝わってきますよ。彼女の他のアルバムを聴きたくなるのですが、これしか世の中に存在しないらしいのです。