トランペットのジョー・ワイルダーとこのアルバムは一般的には無名なのでしょうけど、僕にとっては有名盤なのです。17年前にジャズを聞き始めた僕にとって参考になったのは、今でもジャズの情報をいただいている渋谷のジャズ屋のオヤジさんと、一冊の本でした。それは岡崎正通さんと大和明さんの共著である“モダン・ジャズ決定盤”であり、この作品はその中で取り上げられていたのです。ハンク・ジョーンズ、ウェンデル・マーシャル、ケニー・クラークというサボイのハウスミュージュシャンと一緒に吹き込んだこのクァル テット作品を入手できたのは、本で読んで僕の中で“幻の名盤”となってから10年後のことでした。
ペットの音の美しさは文句無し、うっとりしますよ。また綺麗なメロディが途切れることなく流れ、しかしながら甘い演奏に没落するこ となく、聴く者のジャズ心をたっぷりと満たしてくれます。こんな彼に相応しい曲は、スロー とミディアムの曲なのですが、選曲はズバリその通りです。“チェロキー”をミディアムテン ポで演奏しており、またエリントンのスロー・バラッド“プレリュード・トゥ・キッス”では、ペットの艶かしさにノックアウトされますよ。このアルバムは一人のミュージュシャンが、与えられた最高の録音条件を見事に自分の物にした、輝ける作品です。