Chris Connor
Sings Ballads of The Sad Cafe

録音日 1959年1月29日(ジャケ記載データ)

イス ジャケ作品をつまみ食い

つまみ食い前

 カフェ、喫茶店、或いは軽食屋さんには、誰もが思い入れ深いお店があることでしょう。転勤族だった私にも、各地にそんなお店があります。外の景色、店のご主人、照明など、飲み物や食べ物以外にその店を印象深くしている要素はあります。そのお店の座りご心地も、重要な要素です。私にとって思い出深い店の数々を振り返っても、どんな椅子だったか、どんな座り心地だったかは思い出せるものです。

 クリス・コナーの本作品を「今日の1枚」で取り上げたのは、2003年9月8日のことでした。私にとっては2度目の香港駐在の時期であり、幾つものことが重なり、バタバタしていた時期でした。そんな時期の私に思い出深い店は、九龍側の尖東にあるドイツ人経営のバーでした。そのお店の豊かな味わいのビールとシュナップスと共に、カウンターチェアの座り心地も今でも記憶に残っています。

 素敵だが暗いカフェがジャケットの雰囲気に合う曲はどれかなと思いながら、本作を聴いてみます。

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つまみ食い後

 哀しいバラッドも、クリスさんの乾いた歌声に合うものです。アルバム1枚がタイトル通りに哀しい曲なのですが、クリスさんは充実した内容でワン・パターンにならずに歌っています。プロデューサーと打ち合わせを重ねてレコーディングに臨んでいた、アトランティック時代のクリスさんならではの内容です。

 私にはあまり縁のない「Lilac Wine」という曲が、ジャケに合う曲かなと感じました。恋人を失った悲しさをライラックの木にぶら下げられたワインで忘れていく内容の曲とのことですが、ジャケにあるカフェで一人静かに座りながらワイングラスに口紅をつけるクリスさんを、私はこの曲を聴きながら思い描きました。

 さて先に書いた香港にあるドイツバーの名前をと思い、グーグルマップで調べたのですが、結局分かりませんでした。店のことは、その空気感まで記憶にあるのにと嘆きながら、そういうものだと自分に言い聞かせて本作を聴き終えました。


(掲示板掲載 2019年5月24日から3日間)


参考資料「Brutus Casa特別編集 超・椅子大全!」東京:株式会社マガジンハウス発行、2005年(文中ではイス資料と表記)