Helen Merrill
Music Makers

録音日 1986年3月1日(年月はジャケ情報、日は決め打ち)

マイク ジャケ作品をつまみ食い

つまみ食い前

 1980年代の中頃からジャズの新譜屋さんに、フランスのOwlというレーベルからの作品が並ぶようになりました。当時に新譜を追っていた方々に、注目を浴びていたレーベルでした。当時の私にとっては雲の上のジャズ好きの方々の話を聴きながら、私も何枚かOwlの作品に手を伸ばし、また「今日の1枚」でも計4枚のOwl作品を取り上げてきました。このヘレン・メリルさんの作品も、そんな1枚です。

 ジャケに写るマイクは、ノイマンM149だと思います。しかし歌手のジャケで、歌手本人を登場させず、しかもブラインドをバックにマイクだけで構成するジャケには、怪しさを感じます。そう、このOwlというレーベルは怪しさが、人を惹きつける魅力だったのでしょう。

 「今日の1枚」で本作を2005年9月11日に取り上げた際には、私は「やたら力強く歌っているが、悲しみが深くなるだけで、希望のかけらも感じさせないもの」と感想を述べながら、一方で「こんな世界から抜け出したいと思いながらも聴き入ってしまう不思議さ」とも述べました。まさにOwlの魔法にかかったかのような感想でした。

 14年ぶりに本作を聴いてみます。

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つまみ食い後

 ピアノ、ソプラノサックス、そして時にバイオリンの二人から三人をバックにしての歌唱ですから、それはメリルさんにとっても、そしてジャズ・ヴォーカル好きにとっても、いつもとは違う舞台です。

 この作品の普段と違うものに最初は戸惑いますが、それに慣れれば、メリルさんの歌に魅了されていきます。彼女のしっかりと歌う歌唱が、まるで語りのように伝わってくる不思議さに、聴き入っていく作品です。

 Owlは1990年代に入ると消えていきますが、これは新興レーベルの運命とも言えます。私としては、今回のつまみ食いから、そして新譜屋さんでの当時の様子を思い浮かべて、まだまだ活動して欲しかったレーベルだなと思いました。


(掲示板掲載 2019年10月15日から3日間)


参考資料「Sound Designer 2018年6月号 マイク読本」有限会社サウンド・デザイナー発行(文中ではマイク資料と表記)