Well, You Needn't (Thelonious Monk)
(take 2、11分21秒)
【この曲、この演奏】
このモンクの有名曲のコルトレーンの演奏ですが、1956年10月26日にプレスティッジで行われたマイルスのマラソン・セッション後半でのものが有名なところです。資料07には1956年から1957年にかけてマイルス・バンドのライブでの演奏が記録されています。また他のモンク曲と同様に、この1957年のファイヴ・スポットで何度も演奏されていたことでしょう。
この曲はこのセッションで二回の演奏が残っています。
-15 take 1(1分23秒)
これは演奏の始まり方、テーマへの入り方をメンバーで確認し合う内容です。1988年に発売された箱物で、初めて世に出ました。
-16 take 2(11分21秒)
リズミカルで陽気なこの曲の魅力を、各所に詰め込んだ演奏となっています。
take 1 で確認したように演奏が始まり、趣向凝らしたモンクのソロへと続きます。そして演奏開始から2分20秒のところで、リーダーであるモンクの「コルトレーン、コルトレーン!」が入り、コルトレーンの雄健なソロとなります。私にはモンクの「お声がけ」は、コルトレーンの気持ちを和らげようとのものと感じ、コルトレーンはそれに応えた演奏を行いました。
この後のソロは、コープランド、ウェア、ブレイキー、ホーキンス、グライスへと続いていき、どれもが聴き所ある内容です。モンクが後テーマへの導入のような演奏を行った後に、メンバー全員でエンディングに突入していきます。この演奏はアルバム「モンクス・ミュージック」に収録され、1957年に発売されました。
この後に管楽器奏者はホーキンスだけが参加して、「Rudy, My Dear」の演奏となり、この日のセッションは終わります。
【エピソード、「コルトレーン、コルトレーン!」とのモンクの叫び】
モンクのピアノ・ソロが終わり、コルトレーンのソロが始まる前のモンクの「叫び」については、「コルトレーンの出が遅れたと(モンクは)思って叫んだのだが、間違っていたのは実はモンクの方」(資料09)とある。
オリン・キープニュースの筆(資料19)によれば、次の通りだ。
レコーディングが終わった直後から、何年にもわたって不正確な作り話がまことしやかに伝えられてきた。それはこういうことだ。
(中略)この曲は全員が熟知していたこともあって、演奏はすぐに始められた。したがって実質的な意味でのリハーサルはスタジオで行われていない。ソロの順番を決めて、意表をつくかのようにピアノから演奏が始められた。いまでは誰もが知っている話だが、次はトレーンがソロを取ることになっていた。ところが、彼はそのことを認識していなかった。ピアノ・ソロが終わり、次いで短いヴァンプが演奏され、その直後にリーダーがコルトレーンの名前を叫ぶ。そこでほんの数小節遅れて、彼が滑らかに、かつ力強いフレーズで見事なテナー・ソロを吹き始める。
何年も経ってから、そのときの彼が居眠りをしていたという間違った内部情報を流すひとが出てきた。それに対しては、こう書いておきたい。その夜、スタジオには当事者以外、内輪のひとも関係者も遊びに来た友人も誰もいなかった。わたしが見ていた限りでは、こうしたことが起こった理由は、単純に音楽上のコミュニケーション不足が原因だったのである。だからこそ、トレーンは即座に対応できたのだ。
【ついでにフォト】
2010年 タイプーサム、ペナン、マレーシア
(2022年1月26日掲載)