19650702-02

My Favorite Things
(R.Rodgers - O.Hammerstein)
(演奏 14分31秒、締めのアナウンス 42秒)



 【この曲、この演奏】

 コルトレーンのライブの定番曲の演奏です。ここでの演奏はA(S)-94「New Things at Newport」には収録されず、1978年になって世に出ました。1963年のこの曲の名演奏は1969年の発売でしたので、この1965年のニューポート分がA(S)-94「New Things at Newport」に収録されていれば、この曲のライブ演奏の公式録音としては最初の発売になったのでした。

 さて演奏ですが、この曲でもマッコイのピアノの録音レベルは低いままです。

 エルヴィンの一撃で始まる姿はいつものだし、テーマを吹き始めるソプラノを持つコルトレーンも、いつもの神秘漂うものです。演奏が始まるとドラムスは控えめ、しかし終盤では叩きまくっています。

 3分強のテーマの後は、マッコイのピアノ・ソロで4分半強のものです。ここでのトリオの演奏ですが、録音レベルがあるのですがそこそこ頑張っているマッコイのようです。ドラム・ソロかと思う場面がありますが、後半になるとギャリソンのベースが仕掛け、マッコイのピアノが輝き出します。

 続くのは5分弱のコルトレーンのソロです。ここでのエルヴィンには、コルトレーンが模索している新たな方向性を自分も考えているのだとの演奏に私は感じます。それが正しいのかは誰にも言えないことでしょうけれど、このコルトレーンのソロの3分過ぎからは、エルヴィンの誘い出しにコルトレーンも乗っかり、燃えたソプラノの熱気が出てきています。

 そのままテーマに流れ、15分弱の演奏が終わっていきます。


 この後、7月28日のパリでのライブではエルヴィンの奇行があり、9月22日には黄金カルテットとしての最後の演奏となり、そして11月23日にはエルヴィンとマッコイのコルトレーン・バンドでの最後の演奏となっていきます。

 7月28日のエルヴィンの奇行は資料01にもあり、早くから有名なことであり、黄金カルテット崩壊と重ねて語られていました。そして1978年にこの演奏が世に出ると資料09にもあるように、ここでのエルヴィンの演奏を「不協和音」として、黄金カルテット崩壊への”出来事”として語られるようになりました。

 ことの真実は別にして、私はこの演奏を聴く度に、今回ここで書いたようにエルヴィン自身も新たな方向を考えていると感じることが多いのですが、時には「不協和音」との説にもうなずくこともあります。



【エピソード、1965年のコルトレーンのライブについて】

 資料03に次の記述がある。

 この時期のコルトレーンのライブを生で聴いた人間は、ほとんど肉体的な興奮を覚えたであろうし、忘れられない体験になったであろう。サックス奏者のジョー・マクフィーは一九六五年にヴィレッジ・ゲイトでコルトレーン・カルテットの演奏を聴き、過剰な負荷に圧倒された。「わたしはエモーションに直撃されて死にそうになった」と彼は語る。「そんな経験はそれまで味わったことがなかった。その場で爆発してしまうんじゃないかと思った。エネルギーの目盛りは上昇するいっぽうで、わたしは思わず、ああ神様、もうこれ以上持ちこたえられませんとつぶやいた」。

 ジャズ評論家で歴史に詳しいダン・モーゲンスターン(スウィングないしビバップ系プレイヤーへの傾倒で知られており、コルトレーンにはほとんど賛辞を呈したことがない)も、同じころに、ある晩ハーフ・ノートでコルを観て、似たような感想を語っている。「そこから放射される強烈な熱気は驚きべきものだった。いまもそれを感じる。それはわたしたちがジャズと呼ぶ音楽に内包されているどんな感情とも異なっていた」



【ついでにフォト】

tp10009-105

2010年 ペナン、マレーシア、タイプーサム


(2021年7月25日掲載)