Brasilia (John Coltrane) (18分44秒)
【この曲、この演奏】
ヴィレッジ・ヴァンガードの初日の最後を飾るこの曲ですが、私には非常に印象深く、この四日間で何度も演奏された印象なのですが、この初日だけの演奏です。
さて「呪術的なテーマ」(資料09)のこの曲ですが、資料07によれば、この日の演奏が初演となります。この際には「Untitled Original」と、インパルス!では記録していました。
1962年4月12日に行われたヴァン・ゲルダー・スタジオでのセッションでこの曲が取り上げられましたが、そこでは「Neptune」との曲名で記録されています。なおこのセッションの音源は、未発表のままです。
1965年5月17日のヴァン・ゲルダー・スタジオでのセッションでも、この曲が取り上げられました。そこでは「Brazilia」と名付けられ、それはA(S)-85(The John Coltrane Quartet Plays)として、1965年に世に出ています。
John Coltrane(ts)
Eric Dolphy(as)
McCoy Tyner(p)
Reggie Workman(b)
Elvin Jones(d)
このメンバーでの演奏ですが、重厚なテーマ、ベースの存在が強く出ています。そこかた5分強のコルトレーンのテナー・ソロに続いていきますが、それは祈りや怒りが交差するようなものです。マッコイのピアノは、すぐにオフになっていきます。そしてドルフィーのアルト・ソロの3分半となりますが、コルトレーンが重戦車ならば、ドルフィーは山道を駆け抜けるジープような軽快さです。そしてマッコイのピアノ・ソロ、4分強ですが、最初は演奏に迷いが感じられます。しかしながら1分すぎから調子が上がっていき、最後の方には凄まじさを感じる演奏になっています。ソロ演奏の最後は、この初日の唯一のベース・ソロ、3分弱です。この曲では最初から好調なワークマンが、ソロでは神秘の世界に入っていくような熱演となっています。後テーマでは、コルトレーンとドルフィーの息の合い方に聴き入りながら、演奏は終わっていきます。
さてここでの曲名についてですが、この演奏が最初に世に出た1977年発売のAS-9325(The Other Village Vanguard Tapes)では「Untitled Original」となっていますが、その後の発売作品では「Brasilia」とクレジットされています。
【エピソード、ボブ・シール その1】
ボブ・シール。アイデアマン、ごまかし屋、謙譲の人、はったり屋、目利き、ペテン師。尋ねられる人によってその評価は異なる。しかし、明暗こもごものその人生の中でその場その場の状況を最大限に利用する才覚があった男、という点では誰の意見も一致している。クリード・テイラー はその先見性によってインパルスの種を蒔いた。シールは好運にも61年から69年という最も実り多い時期にこのレーベルを育て、成熟へと導いた。
シールもまたテイラーと同じく、いつでもジャズに誠実に尽くした。しかしこの二人には相違点も多かった。ニューヨークに生まれ育ったシールはテイラーと違い、穏やかでも控えめでもなかった。「食えないニューヨーカー」、笑いを押し殺しながら、シド・フェラーはそう振り返る。「ブロードウェイの山師さ」、アーチー・シェップにとってシールは「独創的なA&Rマン」であり「索を弄するやり手」だった。
(資料13より)
【ついでにフォト】
2009年、みなとみらい
(2021年1月18日掲載)