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Giant Steps (John Coltrane)



【この曲、この演奏】

 コルトレーンが作った代表的な曲であり、また本セッションから一ヶ月半後の五月5日にコルトレーンはこの曲を再び取り上げ、それはその生涯の中でも代表的な演奏となっています。

 本セッションではこの曲を8回演奏しています。その最後のTake 8 は、コルトレーンのアトランティック作品の8+2枚の後者の、1975年発売の「Alternate Takes」で世に出ました。それについては別に取り上げます。

 ここでは他の7つのテイクについて、触れていきます。


-01 Take 1, incomplete (4分27秒)

スタジオ内でメンバーとスタッフの会話も収録されており、実質の演奏時間は3分37秒です。

また資料07にはこのテイクについて、「warm-up b + bd」と表記されています。「演奏の準備と中断」との意味です。

演奏はそれなりの時間をかけていますが、コルトレーンは完全に手探り状態、チェンバースはコルトレーンの意図を理解している演奏ですが、シダー・ウォルトンとレックス・ハンフリーズはおっかなびっくりの演奏です。

コルトレーンが意図する、早いコードチェンジにアドリブを炸裂させて躍動感あふれるスピード感には程遠い内容で、コルトレーンの苛立ちも感じられますが、最初のテイクなので手慣らしの演奏とも言えるでしょう。

終盤にはコルトレーンは演奏をブレイクする姿を見せますがピアノとドラムは演奏を続け、仕方なくコルトレーンも演奏に付き合う場面があります。しかしその数秒後にはやはりダメだと、コルトレーンは演奏を止めています。


-02 Take 2, false start (14秒)

コルトレーンが吹きはじめたところで演奏は中断、ドラムは軽くシンバル、ピアノは調子ハズレの演奏でした。


-03 Take 3, incomplete (2分50秒)

テーマに関してはコルトレーン自身は手応えあるかの演奏ですが、アドリブに移るとやはりバックに不満を感じ、自分のイメージと演奏の違いに直面しているコルトレーンです。ピアノは無難な演奏になってきましたが、ドラムはまだタイミングを掴めない模様です。コルトレーンもこれがOKテイクになるとは端から思っていないようで、練習テイクとの気持ちの演奏ですが、流石にこれ以上と思ったのか、途中で終了させました。


-04 Take 4, incomplete (1分19秒)

ここでもアドリブに入ってから、コルトレーンが演奏を中断させています。まだリズム陣との呼吸にズレがあるようです。


-05 Giant Steps (Take 5, alternate) (3分41秒)

5回目にしてピアノとドラムがリズム感を掴んでようで、このテイクは完走とはなりましたが、コルトレーンのソロには途中で乗り切れない様子がうかがえ、OKテイクとはなりませんでした。


-06 Take 6, false start (32秒)

テーマの後半で演奏が中断となりました。その直後のスタジオ内の会話からすると、コルトレーンはもっとフワフワと浮くようなリズム感を求めているようです。


-07 Take 7, incomplete (4分12秒)

完走の5回目よりも長い演奏時間ですが、最後のテーマに入りかけたところでブレイクです。何かしっくりこないものを感じているコルトレーンです。




【エピソード、本セッション】

 1月15日のセッションがアトランティックによるコルトレーン歓迎セッションだとしたら、このセッションは自身のバンドで自分が突き詰めたい演奏を目指しているコルトレーンの、腕試しセッションと言えるのであろう。

 セッションのメンバーに選んだのは、シダー・ウォルトン、ポール・チェンバース、そしてレックス・ハンフリーズであった。

 先ずは信頼が厚いチェンバースを確保できたことは、コルトレーンにとって喜びであっただろう。

 シダー・ウォルトンとコルトレーンの共演歴は、資料06によれば3回ある。最初のは時期はこの年の春となっているが、本セッションの前であったようだ。ケニー・ドーハムのバンドでのライブで、この情報は資料06の執筆陣(まず藤岡氏だろう)が、1991年の大阪ブルーノートでのウォルトンのライブの際のインタビューから得た情報とのことだ。このドーハムとのライブで、恐らくコルトレーンはウォルトンに目をつけ、本セッションに声をかけたのだと思う。

 2回目のウォルトンとの共演は本セッション、そして最後となる3回目の共演は、この年の晩夏のバードランドでのコルトレーンのライブであった。この情報も資料06の執筆陣(藤岡氏だろう)が、大阪ブルーノートのライブでのウェイン・ショーターから得たものだ。そして時期は多分9月としている。このライブではコルトレーンは、トミー・フラナガンとウォルトンという二人のピアニストを代わる代わる使っていたとのことだ。これから想像すると、本セッションから一ヶ月半後にはトミフラを使って「ジャイアント・ステップス」を吹き込んだコルトレーンが、この二人のピアニストを比べる場として、このバードランドでのライブを行なったのかもしれなし。

 コルトレーンとウォルトンの共演は、この1959年の半年間の3回だけであった。

 次にドラムのレックス・ハンフリーズとコルトレーンの共演だが、資料06によれば2回である。それはウォルトンもいた3月のドーハム・バンドでのライブと、本セッションである。ハンフリーズとの関係は、本セッションで終わりとなった。



【ついでにフォト】

tp09026-089

2009年、みなとみらい


(2020年3月30日掲載)