19571220-02

Clifford's Kappa (Ray Draper) (9分16秒)



【この曲、この演奏】

 レイ・ドレイパー作の曲で、コルトレーンの演奏記録は本セッションだけです。

 曲名の意味を考えてしまいます。先ずは「kappa」ですが、ネットで調べたところこれはスラングで「皮肉」「冗談」を含ませる意味の言葉とのことです。例えば「You’re handsome kappa」とあれば、「君はハンサムだねという賛辞ではなくただの煽り」とのことです。

 では「Clifford」は何かと言えば名前(1stネーム)で使われ、ジャズ界に何人もいるのでしょうけれど、一般的にはブラウニーのことになるのでしょう。

 しかし「ブラウニーの皮肉」となると何を言いたいのか分からず、そもそも前提付きな訳ですから、これ以上に考えるのは意味のないことでしょう。

 さて演奏ですが、チューバという楽器をソロで使うにはその表現方法に限りがあり、どうしても朴訥とした演奏になってしまいます。ドレイパーは天才と言われていただけのことはあり、またプレスティッジがリーダー作を用意しただけに、このソロには向かない楽器を上手く使いこなしていますが、そこには楽器の限界があります。そんなチューバのドレイパーに寄り添うコルチレーンはドレイパーの演奏を意識して、いつもより緩やかな演奏をしています。

 ミドル・テンポの楽しい曲を聴きながら、ドレイパーとコルトレーンの演奏風景を思い浮かべ、ニヤリとしてしまいます。




【エピソード、1951年のコルトレーン、板歩きの刑のような仕事】

 レッスンを受けながら、音楽とテナー・サックスの勉強と研究の日々を送った1951年だが、生活費を稼ぐ必要が、当然ながらコルトレーンにあった。

 この時期はリズム&ブルースが全盛であり、巷のバーでは単純さを売り物にした風変わりなショーが流行っていた。演奏はどデカイ音でリズム&ブルースをがなりたてていた。そして「ウォーキン・ザ・バー」と呼ばれたスタイルで演奏するのであった。ステージで演奏するだけではなく、バーのカウンターを、客の指や飲み物を踏まないようにして、体をひねりながら何度も歩くというものであった。客は狂気じみたその行為を喜び、店側は売上に喜び、ただしミュージシャンはFワードを口にしたい気持ちをぐっと堪えていたのであった。

 まさにこれは、舷側から突き出た板の上を目隠しされて歩くようなもの、であった。コルトレーンもこの板歩きの刑のような仕事をしながら、生活費を得ていたのであった。(資料01)



【ついでにフォト】

tp05052-100

2005年、香港


(2019年11月1日掲載)