Solitude (Ellington - Delange - Mills)
(8分31秒)
【この曲、この演奏】
エリントンの名バラッドです。後からつけられた歌詞は、「これほど不幸になれる人がいるものか。どこもかしこも薄暗いばかり」と、絶望のどん底の内容です。それを歌い上げたのがビリー・ホリデイ。そして数多くのミュージシャンによって、この曲は今でも輝く存在になっています。(資料14)
「エリントンがスタジオで曲数不足のため、メンバーが到着するまでの20分で書いた曲」というのが、この曲が誕生した有名な逸話です。しかし、急遽こしらえた曲が名曲に、というのは世に中に数多あるもの。また作曲を行うミュージシャンには、次から次にメロディが舞い降りてくる時期があるもの。35歳のエリントンは、まさにそんな時期にこの曲を作ったのでしょう。
この名バラッドをコルトレーンはなどか演奏しているかと思いきや、資料06によれば本セッションだけの演奏記録です。そして資料08によれば、ガーランドも同様にこの曲の演奏記録は本セッションだけです。
さて演奏ですが、至極のバラッドをサラッとした優しさで聴かせています。ガーランドとコルトレーンも、甘さの加え加減で個性を感じられる良い演奏です。その中で白眉は、バードのトランペットでしょう。ブラウニーが亡くなってから1年半経った時期ですが、JMでの活動などで経験を積んだドナルド・バードのハードバップ絶頂期の中での存在感を示す演奏といえ、トランペット奏者としての実力を示すものです。
私ならこの曲の名演ベスト10に、この演奏を加えたいです。
【エピソード、1957年10月27日の演奏】
資料12に次の記述があります。
マンハッタン52丁目西310番地、パーム・ガーデンズに勢揃いしたハード・バップの覇者たち。ドナルド・バード(tp)、フィル・ウッズ(as)、コルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、トミー・ポッター(b)、アーサー・テイラー(d)。
1957年10月27日、日曜日の午後、「サンディ・アフタヌーン・ジャズ」シリーズが始まった。駆け付けたサックス奏者マルセル・ザニーニはカメラを構えこの貴重なシーンをフィルムに収めることに成功。しかし、事前の告知が不十分だったため会場に客の姿は「10人ほどかなぁ」というまことにもったいない有り様。
ドナルド・バードはソニー・ロリンズのバンドに入っており、当日は日曜のマチネー(昼公演)のためヴィレッジ・ヴァンガードに出演する予定であった。しかし、実際ここに写っていると言うことは、既にロリンズバンドを辞していた、このあとすぐにヴァンガードへ駆け付けた、このどちらかであろう。
コルトレーンはこの夜、モンクとファイヴ・スポットに出演。
ちなみにパーム・ガーデンズは、コルトレーンが7年後の1964年4月8日(水)、マルコムXの演説を聞きに行って、おおいに感銘を受けた場所である。
マルセル・ザニーニが撮影した2枚の写真と共に、この文章が資料12にある。なんとも贅沢な瞬間と思う演奏風景の写真であり、文章と共にこの時期がハード・バップの絶頂期であることが感じられる写真であり、たった10人の客という残念な様子も伝わる写真でもある。
ちなみにこの日の演奏記録は、資料06, 07, 08, 09に記述がないもの。そこに「何故に?」との思いが湧くのだが、藤岡氏が編纂した資料12なので、この催しが1957年10月27日にパーム・ガーデンズであったのは事実なのであろう。
私は10人の観客の中に、テープレコーダーを回している人がいて、その人の孫が屋根裏整理でそれを発見して、「世紀の・・・」との宣伝文句と共に世に登場する時がくるのを待っていたい。
【ついでにフォト】
2005年、香港
(2019年10月27日掲載)