Speak Low (take 1)
(Ogden Nash - Kurt Weill) (5分)
【この曲、この演奏】
資料14によればこの曲は、生命を吹き込まれたビーナス像が恋に落ちるという、1943年のミュージカル「ワン・タッチ・オブ・ビーナス」中のナンバー、とのことです。カーメン・マクレヤなどの歌手も取り上げている曲ですが、なんと言っても多くのピアニストに愛された曲と言えるのでしょう。
コルトレーンの演奏記録としては本セッションの他に、1960年7月にショウボートに第二期カルテットとして出演した際にこの曲を演奏し、しか録音に残っているとのことです。(資料07)
またソニー・クラークのこの曲の演奏記録としては本セッションの他には、1956年のバディ・フランコのセッションでの演奏があるだけです。(資料08)
さて演奏ですが、クラークが軽く弾いたピアノ後にコルトレーンがテーマを吹き始め、それは1分20秒と、長めのものとなっています。そしてこの後にコルトレーンのソロとなり、これは1分半近く続きます。ここでのコルトレーンの演奏は、この曲が持つ不思議な恋心に、一見恋に不器用な人間が真剣に向かっていく様子に思え、興味深い演奏となっています。
この後にはフラーのソロがあり、その後にはまたコルトレーンを主役としたテーマがとなり、演奏は終わっていきます。
トランペットとピアノは、ソロをとっていません。主役のクラークがなぜソロを取らないのかと、不思議な気持ちが残ります。資料07によれば、このテイクのトランペットとピアノのソロは、編集でカットされたとのことです。
このテイクはアルバム「ソニーズ・クラブ」には収録されませんでした。私がCDで持っているのは1988年発売の「ソニーズ・クラブ +3」ですが、ここで初めてこのテイクが世に出たのでした。別テイクなのになぜ編集でトランペットとピアノのソロをカットしたのかは不明のままです。
【エピソード、コルトレーン語録 その4】
「だが、今は、リズム(セクション)が自由にやってくれるほうが好きだな(笑)。慣れるまでは大変だったが(笑)、今はその方針を受け入れている。確かに初めは不安だった。ちょうど反復進行を掘り下げていた時期で、リズム(セクション)も私と一緒に反復進行をプレイすべきだと感じていたから。そのあとでこの道へ至った。この曲がりくねった道へね。だが試行錯誤を繰り返し、失敗するたびに、彼らはもっと自由にやるべきだと思えてきた、できる限り自由にね。その上で、彼らのやっていることに合わせて、自分のやりたいように反復進行を重ねていく」
ジョン・コルトレーン、一九六一年十一月十九日、ミヒール・デロイテルとのインタヴューより(資料04)
なおこのインタヴューは下記のwebページで聞くことができるとのことだ。
http://mdr.jazzarchief.nl/interviews/coltrane
【ついでにフォト】
2011年 ペナン、マレーシア
(2022年2月12日掲載)