Bakai (Calvin Massey) (8分40秒)
【この曲、この演奏】
カルヴィン・マッセイ作のこの曲のコルトレーンの演奏記録は、本セッションだけです。この曲について資料05では次のように紹介しています。
「バカイとはアラビア語で叫びを意味する。作曲は、キャルヴィン・マッシー。フィラデリフィアで絶大な信頼を得たトランペッター兼アレンジャーで、コルトレーンの親友でもある。北部に生まれたエメット・ティル(当時14歳)が、夏休みに南部ミシシッピ州に遊びにきていて、白人女性に声をかけただけで、凄惨なリンチを受けて川に投げ捨てられた。南部の厳しい人種差別を知らなかった黒人少年を弔う曲である」
メンバー全員がこのマイナー・ブルースに込められた意味を、しっかりと理解して、自分の考えをもって、演奏に望んでいると感じました。シハブのバリトンを活かしたテーマはまさに叫び、それに続くガーランド、コルトレーン、シハブのソロは深い想いに包まれているものです。特にガーランドのソロは、いつもとは違うガーランドの姿を見せています。
全米を激震させたエメット・ティルの惨殺は、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の高まりとなりましたが、裁判の結果は無罪。これはキング牧師の「私には夢がある」スピーチ、ディランの曲などにより、1960年代以降もアメリカ人にとって忘れられないものになっていきましたが、では南部の黒人差別はどうなったかについては、悲しい限りです。
【エピソード、各資料からこのセッション】
資料05に書かれている初リーダー録音について、要約して次に紹介する。
「ミュージシャンは誰しも、自分の初リーダー作には思いの丈をすべて注ぎ込む。その意気込みが、このバカイという曲には現れ出ている」
「幸いなことにアルバム コルトレーンは、録音から五ヶ月後の1957年10月に発売された。このアルバムはコルトレーン初期の傑作として日本でも愛聴されている。ただし日本では、バリトンサックスが炸裂し、、テーマが劇的変化を遂げるバカイのアレンジよりも、コートにすみれをの、美しいバラードに注目が集まる。これは、コルトレーンのアルバムの中でも随一の傑作と呼ばれる至上の愛よりも、バラードを好んで聴くことにも通じている」
【ついでにフォト】
2008年、みなとみらい
(2019年7月7日掲載)