2019年4月1日掲載

The New Miles Davis Quintet
Miles
Prestige原盤
1955年11月録音

各曲解説 「今日のコルトレーン」

 1950年代に入ったマイルスは、麻薬の問題もあり不遇でありましたが、そんな彼に声を掛けたのがプレスティッジ率いるボブ・ワインストックでした。レコーディングの機会を得たマイルスは音楽活動を続け、麻薬からも足を洗い、ニューポート・ジャズ祭での好評を受け、大手CBSから契約を持ち掛けられました。マイルスはプレスティッジにどれほど恩義を感じていたかは分かりませんが、CBSとの契約に飛びつきました。そして結成したマイルス・バンドが、コルトレーン,ガーランド,チェンバース,そしてフィリー・ジョーとのクインテットでした。

 「ing四部作」となったマラソン・セッション(1956年5月11日と10月26日)はジャズ界の語り草ですが、その半年前の1955年11月16日のセッションを含めて、マラソン・セッションとする見方もあります。

 本作品は、1955年11月16日のセッションで演奏された6曲が、全て収録されています。A面では、セッション中盤で演奏された2曲「Just Squeeze Me」と「There Is No Greater Love」、共にマイルスがミュート・トランペットで吹いたスロー・ナンバーが並んでいます。そしてアップ・テンポの「How Am I To Know」をオープン・トランペットで吹いてA面が終了します。
B面に移ると、「S’posin’」「The Theme」「Stablemates」の3曲が続きますが、スロー・テンポの曲はなく、ミュートで1曲、オープンで2曲とマイルスは演奏しています。

 この作品は俗に「小川のマイルス」と呼ばれています。しかしジャケを見ると、小川というより運河と思えるものです。そしてその写真は、郷愁を覚えるものではありません。適当な写真で誤魔化したというのが私の感想であり、ブルー・ノートとは大違いだなと思います。
しかしながら新しいマイルス・バンドの誕生を告げる作品を、今日は聴いてみます。

 各曲については、「今日のコルトレーン」でのコメントをご覧下さい。

 ここではコルトレーン抜きで演奏された「There Is No Greater Love」について、少し触れます。この曲は作曲家でありバンド・リーダーであったアイシャム・ジョーンズが作ったラブ・ソングで、ダイナ・ワシントンの熱唱で知られており、また多くのジャズマンが取り上げてきた曲です。本作品での演奏は、スローでのマイルスのミュートの美しさとスリル感を存分に楽しめるものです。そこにガーランドのブロック・コードでの甘い響きも加わるのですから、言うことなしの演奏です。ここにコルトレーンも加わった演奏も聴きたいと思うのですが、マイルスはこの曲は俺一人でとの狙いがあったのでしょう。
この作品の白眉はやはり、スローでのミュート・トランペットの演奏の存在感に惹かれる、A面最初の2曲となります。そこで感じたのですが、1曲はB面冒頭に配置したら、アルバム全体として聴きごたえが上がったのでは。そんな事を感じながら、実際にその順番で聴き返してみましたが、なかなかでしたよ。

 このセッションでのコルトレーンの演奏について批判する向きもあるのですが、私にとってはプレスティッジでのこのマイルス・バンドの演奏は、全て輝いているものです。