Chasin’ Trane
(John Coltrane)
(16分8秒)
【この曲、この演奏】
この二日目の冒頭でB-flat bluesの「Chasin’ Another Trane」を演奏しましたが、コルトレーンとしては不満点があったのでしょうか、ここ五曲目でF blues の「Chasin’ The Trane」を演奏しています。
John Coltrane(as)
Eric Dolphy(as)
Jimmy Garrison(b)
Elvin Jones(d)
この日の一曲目とはメンバーを入れ替えてます。マッコイが抜けピアノレス、そしてベースをワークマンからギャリソンに変更しています。またドルフィーがアルトで参加していますが、これは最後の最後に軽くひと吹きしているだけ、つまりは実質トリオでの演奏です。
さて演奏ですが、最初から最後まで吹き続けるコルトレーンです。またエルヴィンもギャリソンも同様に、最初から最後まで集中した演奏です。この圧倒的なコルトレーンの演奏を前にすると言葉を失くすのですが、あえていうならば、これまでコルトレーンが宗教や宇宙、また自分のルールについて考え思ってきた気持ちの全てをぶつけているようです。
コルトレーンはこの16分の実質トリオ演奏で、ジミー・ギャリソンをバンドのメンバーに迎えることを、そしてエルヴィンとの演奏での可能性の深さを、確信したことでしょう。
この演奏は1962年に世に出ました。
【エピソード、アーチー・シェップの印象、チェイシン・トレーン】
この実質トリオでの「チェイシン・トレーン」についてのアーチー・シェップの言葉が、資料13にある。
コルトレーンの信奉者でアヴァンギャルドの旗手アーチー・シェップはこう話す。「62年、おれは(ニューヨーク)イースト・ヴィレッジのロフトに住んでいたよ。近所でレコードの音が低く聴こえてきた。コルトレーンだ。でも、ピアノの音がしない。曲が進むにつれ、はっきりしてきたんだけど、構成をわりと曖昧にしておいて、そこでコルトレーンはいろんなことをやってるんだ。楽器の通常のスケールのはるか上の音を吹き、中間音、逸脱音、次は倍音というように色々試していた。これにはショックを受けたね。ストラヴィンスキーの『春の祭典』が当時の観衆を飛び上がらせたみたいにね」
「基本的にはブルースだ」とシェップは説明する。「ただそこでは曲の構成よりも旋律そのもの、または旋律とリズムの関係が大事なんだ。ソニー・ロリンズも昔ピアノ抜きでやっていたけど、彼は主にハーモニー志向だった。オーネット・コールマンの場合は逆に完全にハーモニーを超越していた。コルトレーンはこの二人の演奏を破綻なく一つにすることができたんだ。すべてをコンテクストの中に収め、とても洗練されたやり方でそれをやってのけたので、みんなそれに影響された。コルトレーン・カルテットがアヴァンギャルド・トリオとなったのは(ピアノを外した)この瞬間さ」
【ついでにフォト】
2005年 香港、赤柱での龍舟競漕
(2021年1月23日掲載)