I’m Old Fashioned
(Johnny Mercer – Jerome Kern)
(7分56秒)
【この曲、この演奏】
この曲の作者であるジェローム・カーンは、ミュージカル「ショウ・ボート」を担当して人気ソングライターとなり、1940年代からは映画音楽に仕事の主体を移し、その初期のヒット作品が1942年に封切られた映画「晴れて今宵は」の主題歌となったこの曲です。(資料14)
この曲のコルトレーンの演奏記録は、本セッションだけです。
このうっとりするバラッドの演奏ですが、コルトレーンとドリューの二人でテーマを演奏し始め、チェンバースと”フィリー”ジョーが加わり、コルトレーンはアドリブを交えながら2分21秒の演奏を行なっています。
これだけでバラッドのコルトレーンを堪能でき幸せな気分になるものですが、この後にフラー、ドリュー、そしてモーガンへと演奏が続いていきます。この3人の演奏、特にフラーのトロンボーンとドリューのピアノには心が奪われてしまう内容です。モーガンの演奏となり、その終盤にコルトレーンが微かに絡み、演奏が終わっていきます。贅沢を言えば、最後に再びコルトレーンの煌めく演奏で終わってほしかったです。
この曲の名演が誕生し、この日のセッション、そしてコルトレーンのブルーノートとの関わりが終わっていきました。
【エピソード、各資料からこのセッションについて その2】
前年にコルトレーンがシドニー・ベシュのレコードを求めてブルーノートのオフィスを訪れたとき、ブルーノートは彼との契約を見送っていた。だがこの年(1957年)の夏、彼は少額のアドヴァンスを得て、ブルーノートに意欲的なレコーディングを行った。レーベルのいつもの方針の通り、リハーサルの時間に対しても金が支払われ、準備は万全であった。コルトレーンはレコーディングのために五曲を用意した。そのうちの四曲は彼のオリジナルであり、そこにはこの時点での彼の音楽がもっとも端的に表現されていた。
このアルバム「ブルー・トレイン」のために、彼はマイルス・クインテットの僚友ポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズをメンバーに起用した。1曲目の「ブルー・トレイン」は、数ヶ月前に吹き込んだ「トリンクル・ティンクル」でのプレイを想起させるサウンドに仕上がっている。肺活量をすべて使い果たして猛然と疾走するような、刺激に満ちた、ドライブ感いっぱいの音楽だ。これはブルースである。コルトレーンはすでに進歩的な音楽性を持ったブルースの名手としての評価を確立し始めていた。おそらく彼はこのときジャズ界のなかでも最も創造性豊かなブルース・プレイヤーになっていたと思われる。「モーメンツ・ノーティス」と「レディ・バード」はコルトレーンが作った最初の練習曲だ。目まぐるしく変わるコードが普通とは異なった関連でつながっており、テーマは短い作品としては完璧だと言えよう。
ジェローム・カーンとジョニー・マーサーが作った「アイム・オールド・ファッションド」は、コルトレーンがバラード・プレイヤーとしても急速に力をつけてきたことをうかがわせる。ほんの一年前の、たとえばマイルス・デイヴィス・クインテットに入ってコロンビアに吹き込んだ「ラウンド・ミッドナイト」でのたどたどしいプレイと比べると、彼の成長ぶりは明らかだ。ここでの彼のプレイには、情感豊かな分厚いテクスチャー、中音域におけるロング・トーン、ごくわずかのヴィブラートといったコル・サウンドの中核をなす要素が示されている。
(資料03より)
【ついでにフォト】
2010年 タイプーサム、ペナン、マレーシア
(2022年2月24日掲載)