2019年5月1日掲載

Miles Davis
Cookin’
Prestige原盤
1956年10月録音

各曲解説「今日のコルトレーン」

 左手の指でピストンバルブを押さえているイラスト・ジャケですが、改めてこのジャケを見て、マイルスは左利きなのかと思いました。しかしネットから得られる多くのマイルス演奏写真では、どれもが右手の指でピストンバルブを押さえています。しかしこれは私の勘違いで、親指の位置を見ればイラストジャケは右手での演奏でした。演奏者側から見たトランペットのイラストでした。

 さてタイトルですが、何故にボブ・ワインストックは「cookin’」としたのかと思い、料理以外の意味を調べました。口語として「(話を)でっち上げる」との意味があるようですが、スラングとしての使われ方は Cook には無いようです。するとタイトルの意味は、誰もがすぐに思いつくような、「マイルスの曲の素敵な解釈」とのものなのでしょうか。そうならば単純なタイトルの付け方と思います。

 有名なマラソン・セッションでマイルスは、25曲26テイクの演奏を行いました。そして本盤はその中からプレスティッジが世に送り出した「ing四部作」の先頭打者です。練りに練った曲構成で一番打者を送り出すはずですが、ボブ・ワインストックはセッション2日目の最後の6曲(メドレーとするなら5曲)で本作を世に出しました。「セッションは徐々に熟成を増して行き、最後にその頂点を迎えた」と考えるべきなのか、「マイルスのCBSからの1作目が大好評だから、深く考えずに急いで選んだ」なのか、こればかりは誰も想像になるのでしょうが、私は後者だと思います。

 何と言っても白眉は、A面最初の「My Funny Valentine」になります。マイルスのミュート・トランペットの究極の美しさと言える演奏で、ガーランドの華のあるピアノ、チェンバースとフィリー・ジョーの好サポートが加わり、ジャズの魅力が詰まっている内容です。
コルトレーンは、「My Funny Valentine」ではお休みです。1958年9月9日のマイルス・バンドでのプラザ・ホテルでの正式ライブレコーディングでもこの曲をバンドは演奏していますが、そこでもコルトレーンはお休み。資料06を見る限り、コルトレーンがこの曲を演奏した記録はありませんでした。マイルス・バンドでの2回のうち、どちらかでコルトレーンの演奏が聴きたかったです。何故にマイルスは2度ともコルトレーンを外したのか、分かるようで理解したく無いことです。

 さてこの「My Funny Valentine」以外は、全てアップ・テンポの演奏です。その意味ではB面に変化が乏しく、やはりマラソン・セッションの中からB面トップにバラッドを持ってきていたならば、さらに光り輝く作品になったことでしょう。