Saturn
(John Coltrane)
(11分35秒)
【この曲、この演奏】
ローマ神話にある農耕・豊穣の神のサートゥルヌス、そして土星を意味する曲名のこの曲、コルトレーンの演奏記録は本セッションだけ(資料07)です。
さて演奏ですが、このセッションの中でこの曲の演奏だけコルトレーンの鈴から入らず、アリのドラムスから始まります。その一人舞台が2分半ほど続いたところで、コルトレーンのテナーが登場します。それはシンプルなテーマを、天への祈りのテーマであります。この祈りはいくつもの願いの形になっていき、8分半ほど続きます。
この演奏について資料09には、「4分の3拍子のリズムに乗ってシンプル極まりないテーマが現れるが、この美しい転調の連続が、晩年のコルトレーンのオリジナルの特徴だ」とあります。
確かに振り返って聴けば「晩年のコルトレーン」なのですが、この時のコルトレーンにはまだまだ先を見つめていたことでしょう。前年からのアリとの演奏、そして1週間前のセッションでの演奏でアリとの演奏に何かを見出したコルトレーンの、これから先への挑戦のようなこのセッションは、この演奏で終わりとなりました。
【エピソード、日本での記者会見、インタヴューから、その12】
7月9日 東京プリンス・ホテル、コルトレーンの自室
辻本和明氏によるプライヴェート・インタヴュー vol.2 資料17から引用
Q
あなたの演奏が理解できないとか、あれはジャズではないという人々がいますが、明確な回答はありますか?
JC
答えはないと思うね。今は理解できなくとも、いつか突然、あるいは繰り返し聴くうちに理解できるようになる。または全然理解できないままであるかもしれない。そんなもんだよ。人生には理解できないモノだっていっぱいあるからね(笑)。それでも続けるさ。
Q
家でも外でも暇があるときは何をしていますか? いわゆる余暇は?
JC
ここ15年、レジャー(余暇)なんてなかったな。時間があっても疲れ切ってごろごろしているだけだ。もしも2週間の暇があっても、音楽のことばかり考えているだろうね。
Q
アール・ボステック楽団時代のレコードで、気に入っているソロは?
JC
レコーディングはしたけど、ソロがないよ。
Q
ベトナム戦争について、何かコメントは?
JC
戦争は嫌いだ。以上! いかなる戦争もすぐに止めるべきだ。ベトナム戦争もやめるべきだった。この戦争の背後にある要因も、戦争に値するものだとは到底思えない。とにかく戦争は止めるべきだ。
Q
ベトナム戦争について、あなた方(白人ではない人々)の意見はありますか?
JC
もしあったとしても、統一見解としてのコンセンサスはないと思う。
Q
さきほど、信仰する宗教があると言われたようでしたが?
JC
さっきの若い学生に回答したが、あれは答えになっていなかった。私はしゃべるのが苦手なのに、君たちが何時間も話をさせるものだから(笑)。後でよく考えてみると、肝心なことは全く言えなかったと思う。彼は私をクリスチャンだと思っただろう。確かに、父も母も、家族はクリスチャンだし、キリスト教教育も受けて育ったので、キリスト教はいつも身近なものだった。
だが大人になり世界を見渡すと、どんな宗教でも、人間は真理を知っているように感じる。クリスチャンでなくとも、人間は何らかの形で真理を知る必要があるし、クリスチャンであっても、真理がわからないことだってあるかもしれない(笑)。結局のところ「真理を知る」ことは、宗教的な問題ではなく、個人の問題なのではないだろうか。それに「真理」には明確なアイデンティティ(名前)がないしね。各人が、自分の力で、それぞれの真理を見つけなくてはならないと、私は思っている。
【ついでにフォト】
2011年 タイプーサム、ペナン、マレーシア
(2021年10月28日掲載)