My Favorite Things
(R.Rodgers – O.Hammerstein)
(25分9秒)
【この曲、この演奏】
やはり最後の演奏曲は、この曲となります。この日もドルフィーはフルートでこの曲の演奏に参加しています。
さて演奏ですが、前半と比べると散漫なものとなっています。
コルトレーンがソプラノ・サックスでテーマを軸に3分弱演奏し、マッコイが5分半ほど、そしてドルフィーがフルートで5分演奏していきます。ここまでも前半より密度が薄いものですが、問題はここからです。
この欧州ツアーで数日前からのこの曲の演奏構成そのままで、ここでコルトレーンのソロとなります。しかしそれは迷路に迷い込んだかのものです。何かを見つけて何かを失ってと、そんなような演奏です。ソロ開始から5分42秒でテーマを吹き始め、このままクロージングかと思いきや、ここで再び迷路に入っていきます。10分22秒でテーマを吹き、これでクロージングへ向かいます。
前半の部であれだけ絶好調でありながら、数時間後にはその面影もないような演奏になっています。これがライブだ、これが人間だと分かる演奏でした。
【エピソード、ダウンビート誌での批評 1962年4月 その4】
コルトレーン・グループが長い時間をかけて演奏する曲の一つが「マイ・フェイヴァリット・シングス」だ。彼らがプレイすると、この曲には興味深い睡眠効果が生じる。だが、時に長すぎると感じるのは確かだ。
このインタヴューの前夜、彼のプレイする”シングス”をじっくり聴いてみて分かったのだが、コルトレーンは実際には二つのソロをプレイしているようだ。最初のソロが終わると、一瞬だけテーマに戻ってから、次のインプロヴィゼーションに入るのである。
「それがあの曲の構成だからね」とコルトレーンは言う。「あの曲は二つのパートに分かれていて、私たちは両方のパートを演奏する。一つはマイナーのパートで、もう一つはメジャー。マイナーでインプロヴァイズしてから、次にメジャーでインプロヴァイズする」
この二つのパートについて、演奏時間は決まっているのか?
「それはアーティストしだいだな。アーティスト本人が決めることだ」と彼は答えた。「私たちはまずマイナーでプレイしてから、メジャーでやり、マイナーに戻る。だが、確かにこの曲の長さは尋常ではなくなってきている。平均的な持ち時間のセットだと、これ一曲しか演奏できないくらいだ」
しかし長いソロを演奏していて、ネタ切れになってしまう危険性はないのだろうか? アイディアを出し尽くしてしまったら、そのときはどうするのだろう?
「そのときは演奏をすぱっとやめるさ」とコルトレーンはにこやかな顔で言った。「自分がただ音をプレイしているだけのような状態になったら・・・・・それはたぶん、リズムを感じていないということだ。あるいは自分がソロを吹く上でベストのコンディションにないか。ソロの途中でそのことに気づいたら、ひらめきが戻るまでなんとか粘ろうとする。自然発生的な、あらかじめ意図されていない地点へ音を積み上げていき、その地点へ再び到達できれば、ソロを続けられると実感できる。ソロが蘇るんだ。それが叶わなかったら、私はすっぱりとソロをやめる。身を引くさ」
コルトレーンが話す横で妖精のように座っていたドルフィは、インスピレーションが枯渇したときにソロをやめるという意見に、全面的に賛成した。
ダウンビート誌、一九六二年四月十二日号、20~30ページより (資料04)
【ついでにフォト】
2010年 タイプーサム、ペナン、マレーシア
(2022年8月23日掲載)