Greensleeves
(Traditional from England)
(9分59秒)
【この曲、この演奏】
この曲はイングランドの古い民謡で、コルトレーンが本セッションで取り上げた以降、ケニー・バレルやレイ・ブライアントなどが取り上げ、ジャズ・チューンとなりました。(資料14)
エリザベス王朝の時に誕生したとされていて、1580年の記録にこの曲があるようです。作者については諸説あり、ヘンリー8世だとの説もあるようです。この歌は口頭伝承で受け継がれ、17世紀にはイングランドの誰もが知っている曲となったとのことです。(ウィキペディア)
「年3枚のレコードを作らなきゃならないんだよ。次のマイ・フェイヴァリット・シングルスになるような曲を探し回ってるんだ」とコルトレーンは評論家に語っており、タイナーがこの曲を持ってきたそうです。コルトレーンはこの曲については「マイ・フェイヴァリット・シングルスに似ていた」と語り、ここでの演奏については「バックがメジャーからマイナーに変わることもないので、あまりメリハリが出せなかったけど、テンポがいいときは、いい感じになっている」と語っています。(資料13)
なおここでのアレンジは、マッコイ・タイナーがおこないました。
この曲のコルトレーンの演奏記録は、資料07によれば7回ほどあります。スタジオ録音では、この年の12月21日にこの曲を録音しました。そこでの演奏はシングル盤での発売となったので、この存在を知らない方も多かったようですが、後にCDで再び世に出まして、多くの方の知る存在となりました。
また資料09の情報では、キングの企画盤「ジョン・コルトレーンの遺産」(SR-3026-8)の付録として発売されたことがあるようです。
ライブではこの年の3月のシカゴのサザーン・ホテルでも取り上げられいますが、有名どころはもちろん、この年の11月の黄金カルテットにドルフィーが加わってのヴァンガードでのライブとなります。
さて演奏ですが、ソプラノのコルトレーンの深みある演奏が、気軽に口ずさめるこのメロディに、ジャズの息吹を与えています。それと並んで光るのは、マッコイの存在です。彼のピアノ・ソロは無論のこと、ホーンでのアンサンブルを決して多用せず、しかしながら効果的な使い方をしております。
本セッションで10 回目のこのテイクは、A(S)-6として1961年9月1日に、アルバム「アフリカ/ブラス」で世に出ました。
【エピソード、本セッション】
コルトレーンのインパルス最初のセッション、そして初の自身でのオーケストラ演奏となる本セッションについて、各資料の記述を引用する。
資料01
「アフリカ」は、アフリカ音楽のリズムとインド音楽のラーガにヒントを得た曲である。「グリーンスリーヴス」と「ブルース・マイナー」の二つの曲は、まだコンベンショナルなやり方で、特に後者は深く心に響く、例の「叫ぶ」旋律によって、コルトレーンの本質が最も良く出ているものだと言えるだろう。
資料03
「アフリカ/ブラス」は、実際にそれまでとは異なったサウンドが披露されている。コルトレーンのサウンドがここまでエコーがかかったものになったのは初めてであった。十八人のミュージシャンが参加したブラス・アンサンブルは重厚であり、奥行きを感じさせる。これはコルトレーンの集団音楽、どこか異様な雰囲気をたたえた大規模作品の先駆けになったアルバムである。
資料04
1962年11月17日、パリでのジャン・クルーゼのインタヴューより。
(このアフリカ/ブラスを例に、ビッグ・バンドにおいてソロと伴奏のどちらを重視するかとの問いに対する、コルトレーンの返答)
今はもう、君が言うような「ソロイストのバンド」という表現形式を求めていない。その方面ではもう何度も実験を行った。そういうプレイは時に見返りも大きく、満足感もたっぷり得られるが、今はそれをやるつもりはない。「アフリカ/ブラス」について言えば、立脚点が異なっていた。あれは、ビッグバンドがサポートするカルテット、というコンセプトだったんだ。私たちはマッコイがピアノで弾くはずだったフレーズを拝借して、バンド用にアレンジした。バンド全体を、伴奏をプレイする”一つの巨大ピアノ”と化したんだ。
資料05
ブラス部門のリハーサルは午後から深夜にまで及び、コルトレーン・バンドが到着した真夜中から全員揃ってレコーディングが開始された。
【ついでにフォト】
2008年 みなとみらい
(2020年11月28日掲載)