My Favorite Things
(Richard Rodgers – Oscar HammersteinⅡ)
(13分44秒)
【この曲、この演奏】
この曲を取り上げるにあたり、映画「サウンド・オブ・ミュージック」をビデオで観ました。私のメモが正しければ、この映画の中でこの曲が5回使われています。最初が冒頭のタイトル・クレジットで演奏のみ、2度目はジュリー・アンドリュース扮するマリア先生が子供たちと心を通わせる場面です。これは開始から50分ほどの場面ですが、マリア先生が雷を怖がる子供たちに「悲しい時は好きなことを思い出して」と語ってから、この曲が歌われます。3度目は54分のこの映画の名場面、草原での歌の場面です。この曲から「ドレミの歌」へ続くのは、ミュージカル映画を避け気味の私も、今までに何度も目にしてきた場面です。4度目は88分でのパーティの場面で演奏だけ、最後は120分の子供たちがマリア先生と再会する場面で歌われています。
この映画は1965年公開ですが、舞台では1959年11月にブロードウェイ公演が開幕し、数多くの上演がなされました。
コルトレーンがこの曲を録音した本セッションは1960年10月のことです。大ヒットしたミュージカルとはいえ、まだ一般に馴染み深い曲とはなっていなかったようです。資料09には「当時この曲はまだ無名だったのでトレーンのオリジナルと思った人も多かった」とあります。
コルトレーンのこの曲のスタジオでの演奏は本セッションだけですが、この後この曲は、コルトレーンのライブでの必須曲となっていきます。ライブで何回演奏されたかは不明ですが、資料06に記録が残っているだけでも54回あります。なお最初のライブ演奏の記録は、このスタジオ録音の一ヶ月ほど前の9月24日で、第三期コルトレーン・バンドでのモントレー・ジャズ祭での演奏です。これについては私家録音の存在も確認できずなのですが、公式録音がいつか世に出るのを待ちたいです。最後のライブ演奏は1967年4月23日のオラトゥンジでのものです。
さて本セッションでの演奏ですが、この至高の演奏には言葉がないのですが、資料09には「無機的に思えるほど執拗に各人が自らの役割を繰り返すという混沌の背後から徐々に偉容を現す巨大な精神性のような何か。以後コルトレーンが常に身に付けた神秘的な力が初めて漲った」と解説しています。
【エピソード、本セッションでの演奏記録】
本セッションでのこの曲の演奏回数については、各資料で異なりがあります。1983年発行の資料09では1回だけ、1995年発行の資料06では計3回、そして資料08では計2回となっています。
1995年の資料16ではこの1回だけとなっており、これは公式記録となることからなのか、資料06を改訂した2008年の資料07では1回だけの演奏とリストされています。
しかしながら資料07では、次の内容の一文があります。
パリ人のコンサート・プロデューサーのフランク・テノが、アーテガン兄弟の招きにより、本セッションに立ち会った。テノの記憶によれば、本セッションで My Favorite Things は三回演奏され、一度目はコルトレーンはテナー・サックスで、二度目はテナーとソプラノで演奏したとのことだ。テノにはこの二度目の演奏は忘れられない程の出来でだったが、コルトレーンはこの二回の演奏を良しとせず、三度目の演奏をソプラノだけで行ったと。
ジャーナリストでありジャズ評論家でもあるフランク・テノ氏は、2004年に78歳で亡くなった。彼は2001年まで Marnay-sur-Seine で市長を務めていたので(ウィキペディアより)、亡くなるまで記憶はしっかりしていたと想像でき、上記の資料07でのテノからの聞き取りは2002年に行っていることから、その話には信用性があると私は思う。
こんな話に接すればジャズ好きならば、アトランティックの公式記録がどうであれ、テナーでの演奏、そしてテナーとソプラノでの演奏を聴いてみたいと切に願うはずだ。
【ついでにフォト】
2009年 みなとみらい
(2020年8月28日掲載)