Like Someone In Love
(Burke – Van Heusen)
(4分58秒)
【この曲、この演奏】
1944年の映画「ベル・オブ・ユーコン」でダイナ・ショアが歌ってヒットさせたラブ・バラードで、数多くのジャズ作品に収録されている曲です。特に歌手ならば一度は歌っている曲でしょう。資料14にはこの曲の代表的演奏が10枚以上紹介されていますが、このコルトレーンの演奏はありません。
コルトレーンにはこの曲の録音が多数あるかと思いましたが、このセッションと、翌年10月のセシル・テイラーとの共演盤の2回の演奏があるだけです。(資料06)
この素晴らしいバラッド演奏を聴いて、その良さをどう表現すべきか悩んでいる私は、資料11のこの演奏へのコメントを引用したい。
「無伴奏のイントロから最後のカデンツァまで、この演奏はコルトレーンの傑作というに足る名演だ。コルトレーンは急速調のアルペジオに耽る間もメロディを優しく丁寧に扱い、そのソロは実に見事な緊張と弛緩の弧を描いている。彼のバラード・プレイの多くがそうであるように、これまた聴く回を重ねるほどに新たな面が見えてくる」
【エピソード、チャーリー・パーカー】
1946年、ガレスピー・バンドでのパーカーの演奏を聴いた後、コルトレーンとゴルソンは楽屋でのパーカーのサインをもらう列に向かった。資料01にあるこの時の様子は、次の通りである。
コルトレーンは列に並ばすに廊下の隅で、パーカーの姿に真剣な眼差しを向けていた。サインを終えたパーカーはコルトレーンの姿に気付き、声を掛けた。
「どうしたんだ。君はチキンではないだろう。じゃあ俺に食べられる心配はない。そして君はサックスでもない。だから俺は君を吹こうと思わない。よし、それじゃ早く要件を言ってくれ」
パーカーに声を掛けられたコルトレーンは、偉大なサックス奏者の前にいるだけで嬉しかった。そんなコルトレーンの様子を察して、パーカーはさらに声を掛けた。
「君は楽器をやるのかい」
ここで横にいたゴルソンが言葉を挟んだ。
「彼はアルトを吹くんです、とってもうまいんです」
「君はだれだい。ひょっとしてこの男の兄さんかい」
ここでゴルソンはパーカーに何のためにここにきたのかを話した。
「いつかフィラデルフィアに行ったら、こんどは君たちの演奏を聴かせてもらうことにするよ」
「今夜はこれで失礼するよ。ディジーに招待されているんだ。バーベキュー・パーディーでね」
こう言ったパーカーはコルトレーンの方へ振り向き「一体君の名前は何というのかな」
コルトレーンははっきりと名前を名乗り、さらに綴りを教えた。
その場を離れようとしたパーカーは振り返ってコルトレーンにウィンクし、こう言ってその日の出会いは終わった。
「君の名前が気に入った。確か英国製のマフィンに同じ名前があったな」
【ついでにフォト】
2007年 アムステルダム
(2019年7月28日掲載)