Psalm
(John Coltrane)
(7分)
【この曲、この演奏】
「至上の愛」パート4は、「Psalm、賛美」です。この「Psalm」という単語はこの作品以外では目にしたことがありませんが、「讃美歌」「聖歌」との意味です。「the Psalms」となれば、旧約聖書の一書との意味になるとのことです。
この組曲の最後としてコルトレーンは、神を讃える演奏を用意しました。
さて演奏ですが、重くドロドロした空気を感じたものでしたが、何度も長年に渡り聴いてくると、コルトレーンの、黄金カルテットの、神への感謝の気持ちを感じる演奏との印象に変わってきました。二つ折りアルバムにあるコルトレーンの詩には、「Thank you God」との言葉が14回登場します。コルトレーンはこの気持ちをこの演奏にぶつけたのでしょう。
さて演奏の最後の30秒ほどで、もう一本のテナー・サックスが加わります。「このテナーはアーチー・シェップかもしれない」と資料09にあり、この説は1980年代までは有力な説であったと、私は記憶しています。翌日のセッションにシェップが参加しているので、この日にもシェップがスタジオにいても不思議ではないというのが、その説を裏付けでもありました。
資料06、そして07に記述がありますが、この演奏の最後の30秒に、コルトレーン、ギャリソン、そしてエルヴィンの三人による別に演奏がオーヴァーダブされています。それは翌日の12月10日に録音されたものです。
Verve/Impulse! 0602547489470 (A Love Supreme, The Complete Masters, 2015)に、オーヴァーダブ無しの、12月9日の演奏だけのが収録されています。オーヴァーダブにこの曲の最後、このアルバムの最後に強い想いを乗せるのが目的だったのでしょう。オーヴァーダブ無しでも良かったとも感じますし、やはりオーヴァーダブによる効果が生きているとも感じます。
【エピソード、至上の愛の最初の構想】
資料13に「至上の愛」に関する興味深い記述があるので、下記に引用する。
4曲からなるこの組曲風の「神への贈物」は、1964年の夏の終わりの5日間で、熱狂のうちに仕上げられたという。しかし、アリス・コルトレーンの回想によれば、はじまりは1946年、まだコルトレーンが海軍にいた自分にある。(監注:アリスの記憶違い。「啓示」は1957年が正しい)
「海軍にいた頃、あの人は神の啓示のような幻覚を見たの。でも、それが何なのか当時はわからなかった。周りにその意味を教えてくれる人もいなかったし。『至上の愛』(の原案)が浮かんできたのはその瞬間だったとコルトレーンは話してるわ。だから(1964年には)その体験を思い出したんでしょう。あのとき全てを悟ったのよ。音楽、”決意”、”承認”、そして祈り・・・・・。手書きの譜面のコピーがあったはずだわ。もう一度見てみましょうね。きっとまだ、どこかにあるはずだから」
(資料13には譜面が掲載されている。以下はそれへのコメント)
コルトレーンによる「至上の愛」の6枚のプランの最初のページ。興味深いことに、この組曲は当初ラテン系のパーカッションを加えた9人編成バンドで考えられていたようだ。また、組曲の節目となる部分が非常に綿密にプランニングされている点も注目に値する。たとえば「承認」での「すべてのキーで4音からなるモチーフの演奏」、「賛歌」での「ホルンによる祈り(彼の詩)の朗唱」、また組曲の終わりに際しての「至福に満ちた安定」や「(コルトレーン)のアラバマの最後の和音のような響き」といったコメントが見られる。
【ついでにフォト】
2005年 香港
(2021年6月14日掲載)