Up ‘Gainst The Wall
(John Coltrane)
(3分16秒)
【この曲、この演奏】
ミディアム・テンポのコルトレーン作のブルースナンバーです。この曲をこのセッションで取り上げたということは、ここで考えていた新作は、「スタンダードのバラッドで」との明確な基本線は固まっていなかったのでしょう。
ピアノ抜きでの演奏のこの曲は、A(S)-42「Impressions」で1963年7月に世に出ました。
さて演奏ですが、おそらくは今までのコルトレーンの作風を拝借して即興で仕上げた曲かなと思います。コルトレーン節が光りながらも、タイトル通りに何かに「困惑している」雰囲気も漂っています。
この曲は、二つのブートレグ発売があります。一つは1963年6月10日のショウボートでのライブでの演奏記録があり、それが私家録音され、2010年にブートレグCD発売されました。二つ目は1963年7月上旬にカナダはモントリオールのジャズ・クラブでの演奏で、2009年にブートレグCD発売されました。
【エピソード、マウスピース不調説は真なり? その2 道具は命】
ツアー優勝を重ねていたゴルファーの話だが、「やっと念願のパターに出会えた、自分の体の一部だ」と語っていたことがあった。しかしその二ヶ月後にはそのパターについて、「パターに悩んでいる、上りのラインを攻め切れない」と泣き言を言っていた。選び抜いた10数種類のパターを取っ替え引っ替え、練習グリーンで試しているとのことだった。
スポーツ選手は常に相棒である道具を思い、その状態に一喜一憂している。これはミュージシャンも同じことであろう。
コルトレーンは常に大事な相棒であるマウスピースの状態に一喜一憂し続けていたはずだ。資料01には1962年6月1日の時点で、「まだマウスピースの工合が悪い」とある。資料04には1963年4月のケン・バートが行ったコルトレーンへのインタビューがあり、コルトレーンがマウスピースと悪戦苦闘している彼の発言がある。「ちょっとクセがあってね」「ちゃんとした音が出せなければ、気分は台無しだよ。私はこいつをものにしようと戦っているんだ。こいつに、今に見てろよ、って啖呵を切ってやったが、負けたのは私だった」
まだ工合が悪い、戦っているんだ、今に見てろよ、私の想像としか言えないが、サックスプレーヤーのコルトレーンは常にこの気持ちだったのかと思う。
【ついでにフォト】
2005年 香港
(2021年3月11日掲載、改訂2022年11月4日・2023年3月19日)