Why Was I Born ?
(Kern – Hammerstein)
(3分12秒)
【この曲、この演奏】
「何故に私は生まれたのか」と、誰でも考えたことがあることでしょう。突き詰めて考えていけば、それは哲学となり宗教観に行き着くのだと思います。
この曲の歌詞を見ますと、愛する人と一緒にいる夢に浸る女性の姿と共に、自分自身を問い詰めていく女性がいます。こんな葛藤を通して、自分なりの生きる意味を見出して、青春時代を卒業していくのでしょう。
資料14 によればこの曲は、1929年のミュージカル「スイート・アデライン」の挿入歌で、ヘレン・モーガンが歌ったトーチ・ソング」とのことです。
資料06によれば、コルトレーンのこの曲の演奏記録は、本セッションだけです。
さて演奏ですが、バレルとコルトレーンのデュオによるものです。すでにコルトレーンのバラッド演奏は傑出した域に達しており、バレルのアーシーさと繊細さが同居するギター演奏が味わいを豊かにさせています。
資料11によれば、コルトレーンがコード楽器と演じたデュオは、この演奏だけとのことです。貴重な演奏がこのセッションから生まれたようです。
【エピソード、オーガスト・ブルームによるインタヴュー、1958年】
資料4にある、オーガスト・ブルームが1958年6月15日に行なったコルトレーンへのインタヴューを、興味深い箇所を数回に分けて紹介する。オーガスト・ブルームは1955年初頭に、インターナショナル・ジャズ・ソセエティーの設立に関わった方だ。
1958年6月にマイルス・デイヴィス・セクステットが、ワシントンD.C.のスポットライト・ラウンジで1週間のギグを行なった。ブルームは6月15日の日曜日に、コルトレーンをボルチモアの自宅での夕食に招待し、食後の彼との会話を録音した。ただしこれは正式なインタヴューではなく、またコルトレーンは終わり近くまで録音のことを知らなかった。
このインタヴューは、よくある世間話(ブルームの流れにくいトイレの使い方についての説明)から始まり、内容が広範囲に及んでいる。
(JC=ジョン・コルトレーン、AB=オーガスト・ブルーム)
AB ちょっと調子が悪くてね。えっと、あれは何て言うのかな、あの中のアームみたいなやつが・・・あれのせいでタンクに水が貯まるのにえらい時間がかかるんだよ。
JC ああっ、なるほど
AB トイレの前に、本でも読んだらどうだい?
JC ただ待つだけじゃだめなのか? いや参ったね。
AB 哲学書を読んだことはある?
JC えっと、そうだな
AB というか、普段はどんな本を読むんだい?
JC これまで読んだのは、本屋で売っているああいう本・・・わかりやすいナントカ、分かりやすいカントカってやつ? (以下、聞き取れず)
AB ふーん。
JC で、そういった本の中に『Philosophy Made Simple(分かりやすい哲学)』って本があった。それは読んだよ。実のところ、最後まで読んだ本ってのはそれくらいだ。他にもいくつか、気軽に読める本は買ったことがある。例えば『Laungage, Truth, Logic(言語、真実、理論)』(*1)とか。最近買ったやつではね。他にも本は読んだけど、私はこらえ性がないのか、最初の数ページでやめてしまう。で、またきょろきょろやり出して、何かを探そうとする。
AB 君は何を探しているんだろう? つまり、君は哲学に興味があって・・・
JC 分からないな。そうやって探すことに終わりがあるとも思えないし。けど、そういった中にもぴんと来るものはある。たぶん私は、そうやって他人の考えを参考にすることが良いということなのかどうか、見極めようとしているんだと思う。私よりも頭が切れる人たちの考えに触れて、彼らが生きること、つまり、人生をどうとらえるか、しろうとしているんだ。
*1 コルトレーンが言及している本は、アルフレッド・ジュールズ・アイエ著『Laungage, Truth, And Logic(言語、真実、および論理)』。1952年、ドーバー社から出版された米国版を所有していたと思われる。
【ついでにフォト】
2008年 みなとみらい
(2019年12月30日掲載、改訂2023年1月9日)