2021年10月7日掲載

Anthony Braxton with the Northwest Creative Orchestra
Eugene (1989)
Black Saint原盤
1989年1月録音

 「ユージン、斧に気をつけろ」、(自分を中心にして恐縮ですが)1970年代にロック少年だった方には馴染み深い曲名でしょう。ピンクフロイドの有名曲であります。私はこの「ユージン」はギリシャ神話と関係があると少年時代に読んだことがあるのですが、それから数十年経ってネットでみますと、そんなに深い意味はなく付けたようです。

 アンソニー・ブラクストンの本作品のタイトルも「ユージン」なのですが、こちらにははっきりと意味があって、このLP2枚組作品が演奏された会場のオレゴン大学が「Eugene」という場所にあるからです。

 ザ・ノースウェスト・オーケストラには10名ほどの管楽器奏者にリズム陣から構成されていますが、知らない方々の名前ばかりです。

 オレゴン大学にある Beall Hall での録音とクレジットされていますが、ほとんど拍手がありません。ホールに集まった学生は、この演奏に呆気に取られていたのかもしれません。1970年台の欧州のフリー・ジャズを少し聴いた人間ならば、ここでの演奏に入っていけたのでしょう。ジャズでも聴いてみようかの気持ちで集まった学生ならば、聴いてはいけないものを聴いてしまったと思ったのかもしれません。

 さて演奏ですが、ブラクストンの描いた世界によって10本の管楽器が不思議な作用を発揮していき、打楽器を中心にして転換点となる刺激を与えて、興味ある世界を築いています。ただし1枚目と2枚目のA面までは、気持ちが演奏から離れてしまうことも無理がないことでしょう。私としてはもっと”ぶっ壊し”の場面が多ければ良かったかなと、感じました。

 この作品の肝は、2枚目のB面でしょう。ドラマチックな展開の中での刺激的な演奏、ここで拍手が起こりました。