Neil Cowley Trio
Spacebound Apes
Hide Inside原盤
2016年録音
文芸誌「オール讀物」では年に2回「直木賞発表」特集を組んでおり、直木賞受賞者が「デビュー作から受章までの軌跡」との主題で自伝エッセイを寄稿しています。
今年夏の受賞者 佐藤究氏は「光を出て、夜の中へ」との副題でエッセイを寄せました。2016年に江戸川乱歩賞を受賞してもアルバイトの掛け持ちを続ける必要があったとか、長編小説家はジャズが好きなどの話を交えながら、直木賞受賞作「テスカトリポカ」を完成させるまでを書いていました。
その中に、「私にとっての「Ank: a mirroring ape」(著者作の小説)のテーマ曲は、ポスト・モダンジャズのニール・カウリー・トリオによる『グレース」だ」とあります。
何者だと思いWikipediaを見たところ、「1972年生まれ、英国のピアニスト兼作曲家」とあり、2000年に入ってから活躍し、10枚以上の作品を発表しています。
佐藤氏の「ポスト・モダンジャズ」の位置付けは別にして、私にはニール・カウリーに何かの縁を感じ、ニール・カウリーの2016年作品を購入した次第です。
「英国最重要ピアニストともうたわれるニール・カウリーの前作から2年ぶり2016年作が遂にリリース」と、ディスクユニオンの本盤紹介ページにある作品です。
なおジャケットですが、実物は黒バックに銀色ミラーでイラストが描かれています。私のスキャン環境では再現出来ませんでした。
「Weightless」から「Hubris Major」と続く冒頭の展開は、未知の世界を進んでいく気分になる演奏です。
何故だか私は映画「ミクロの決死圏」での、ミクロ化された潜水艇が血管を通って胎内を進んでいく様子が頭に浮かびました。この冒頭の幻想な雰囲気の後には、リズム強く展開したりと、さまざまな仕掛けが用意されています。先の映画でいえば、ファンタジーな世界の後にはスパイアクションあり、密室げきあり、サスペンスありの展開と続くので、これもニール・カウリーの音楽と映画「ミクロの決死圏」は合っているのかなと、無理矢理こじつけて本作を聴き進めました。
このニール・カウリーは、フュージョンやプログレッシブ・ロック、テクノ・ミュージックなど幅広い音楽を聴き込んでいる方なのでしょう。もちろんジャズにも精通しているだろうし、クラシックも詳しいことでしょう。本作は、そんな彼の創造が、いろんな形で詰まった作品と言えます。
こじつけついでに言えば、佐藤究氏の直木賞受賞作「テスカトリポカ」では、メキシコから川崎、更にはジャカルタまでその舞台は移っていき、主たる人物も変わっていきますが、中心に流れているテーマは同じ方向を向いています。ニール・カウリーが本作で示した音楽との共通点があるなと、感じ入りました。
さて本作は「Death of Amygoala」と「The Return of Lincoln」という、美しさが透き通って伝わってくるピアノ演奏で終わっていきます。
不思議でありながら、身近な感じる、ニール・カウリー独自の世界を堪能しました。
(ミクロの決死圏についてウィキペディアからの引用があります)