2021年10月2日掲載

Art Blakey And Jazz Messengers
‘Album of the Year’
Timeless原盤
1981年4月録音

 1970年代のジャズは様々な潮が流れ、ジャズに関する文章を書いて生業としている方々でも、今もってその全体像を掴めていないと言えるのでしょう。

 ジャズ界の名バンドであるジャズ・メッセンジャーズの1970年代は、”暗黒時代”と一般的に呼ばれています。この「今日の1枚」で取り上げた作品で言えば、「Backgammon」(2015/9/6)や「Gypsy Folk Tales」(2015/10/9)が、そんな時期の作品と言えます。

 スイングジャーナル誌において「新伝承派」と呼ばれ、1980年代に人気になったウィントン・マルサリス(tp)は、1961年生まれであり、1970年代は音楽の勉強に励んでおりました。そんな彼がジャズ・メッセンジャーズに1980年に加入し、ウィントンの人気が上がると共に、名門バンドも復活を果たしていきました。「今日の1枚」で取り上げた作品でいえば、「Live At Sweet Basil」(2008/1/28)がそんな時期の代表作です。

 今日取り上げる作品は、ウィントン加入後の2枚目の作品です。この作品が新譜コーナーに並んでいた時期の日本においては、一部の新譜を追っかけている方々の間で、ウィントン加入のジャズ・メッセンジャーズが評判になっていたと、うっすらと記憶しています。

 ボビー・ワトソン(as)、ビル・ピアース(ts)、ジェイムズ・ウィリアムズ(p)、そしてチャールズ・ファンブロー(b)が参加しての演奏です。

 ウィントン・マルサリスの若さ爆発のトランペットも素晴らしいですが、音楽監督を務めるボビー・ワトソンの仕切りの上手さが随所に光る内容と言えるでしょう。

 本作発売時にはCDが登場していたとはいえ、まだLPレコードの時代でした。A面では賑やかにスイングしながらパーカー作の「シェリル」で決めた後に、ワトソンの奥様が作ったという「ミス B.C.」が登場します。高速の刺激ある演奏で、1曲目との対比としても印象に残る演奏内容になっています。

 B面の最初はチャールズ・ファンブロー作の「リトル・マン」で、ファンキーにぶちかました演奏です。そして続くのはショーター作の「ウィッチ・ハント」です。恐らくはジャズ・メッセンジャーズが取り上げるのは初めてだと思いますが、この曲の持つ艶のあるメロディを素敵に演奏しています。

 ボビー・ワトソンのアレンジに感心しながらアルト・サックスの響きにも感心し、ビル・ピアースのテナー・サックスにも不思議な輝きを感じ、堅実なベースとピアノと共に楽しめる内容です。そしてもちろん、ウィントン・マルサリスの放つ勢いにも感嘆しました。

 最後になりますが、録音時点で61歳のブレーキーが変わらずのドラム演奏に喜び、常に変わらず若いミュージシャンを信じ続ける人間の大きさにも感心しました。